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賃借物の一部滅失その他の事由による賃料減額について

森田雅也森田雅也

2022/06/17

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イメージ/©︎prathanchorruangsak・123RF

今回は、2020年4月1日施行の改正民法に基づく、賃借物の一部滅失その他の事由に伴う賃料減額について、ご説明いたします。

まずは、改正民法の条文について確認しましょう。

民法611条第1項
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであったときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

この条文は、賃借人に責任がなく、賃借物の一部が滅失するなどして賃借物が使用収益できなくなったとき、使用収益できなくなった分に応じて賃料が自動的に減額されることを定めたものです。

この改正に伴い、国交省が作成する「賃貸住宅標準契約書」、いわば賃貸借契約書のひな型も以下のように定められました。

賃貸住宅標準契約書(平成30年度3月版)
※甲は貸主、乙は借主とする

第12条1項
本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。

賃借物の一部が使用収益できなくなった場合の賃料の減額の程度や期間について、条文や裁判例などで明確な基準は定められていません。

上記条項は、減額の程度、期間その他必要な事項については、貸主と借主で協議して決定することを明示的に定めたものとなります。 

そもそも、どのような場合が、「使用及び収益をすることができなくなった場合」にあたるのでしょうか。

この点、裁判例は、賃借物が一部滅失はしていないものの使用収益できなくなった場合に、賃貸借契約の目的を達成することができないほどに使用収益ができなくなっているか否かについて判断しています。

参考までに、賃料の減額が肯定された過去の事例(東京地裁 平成18年9月29日判決)をご紹介します。

【事案の概要】(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃貸人Xは、平成17年7月29日、本件建物につき賃料21万6100円、共益費7000円とする賃貸借契約を賃借人Yと締結した。賃借人Yは同年12月1日以降、寝室の窓の破損を理由に賃料の支払いを拒絶した。これに対し、賃貸人Xは、平成18年4月7日、賃料不払いを理由とする賃貸借契約解除の意思表示を行い、本件建物の明渡及び未払賃料の支払いを求めて提訴したところ、賃借人Yは賃料減額及び賃貸借契約解除の無効を主張した。

【判決の要旨】
これに対して裁判所は、賃料減額請求の可否及び賃貸借契約解除の効果につき、

① 本件建物の寝室の窓が遅くとも平成17年12月1日以降壊れ、窓と部屋との隙間を埋めるパッキンがずれ落ちてしまったため、すきま風と本件建物の眼前の鉄道の騒音が部屋内に侵入したこと、賃借人Yは直ちに賃貸人Xに対し修繕を求め、対処するという返事を得たもののその後の連絡がなかったこと、部品がなく修理が完了したのは平成18年6月頃であったこと、賃借人Yは平成17年12月1日から修繕が完了する平成18年6月30日まで、本件建物に居住することができず、友人宅に住んでいたことが認められる。

② そうすると、賃借人Yは、平成17年12月1日から平成18年6月30日までの間、賃貸人Xの修繕義務の不履行により、少なくとも本件建物の一部が使用できない状態にあったことが認められる。

③ 賃借人は、賃貸人が修繕義務を履行しないときは、民法第611条第1項の規定を類推して、賃料減額請求権を有すると解されるところ、上記修繕の対象は窓であり、本件建物の使用収益に及ぼす障害の程度、被告が中目黒の友人宅に居住せざるを得なかったことなど、諸般の事情にかんがみると、本件賃貸借契約においては、減額されるべき家賃等は50パーセントをもって相当とする。

④ 以上から、賃貸人Xの契約解除の効力を否定した上で、減額された残りの未払賃料につき賃貸人Xの請求を一部認容した(賃借人Yによる平成17年12月1日から平成18年4月7日まで1カ月につき11万5050円の割合による金員及びこれに対する各支払期限の翌日から各支払済みまで年14.56パーセントの割合による金員の支払い)

このほか、裁判所が賃料減額を認めたのは、雨漏り、漏水やカビ、排水管の閉塞、窓の破損、換気扇の不具合や便器の故障による汚水の漏れです。

一方、裁判所が賃料減額を認めなかったのは、エアコンの不具合や備品の軽微な不具合、照明器具や換気扇の故障、他室の騒音です。

では、賃料が減額されるケースにおいては、何がトラブルになりうるでしょうか。

次ページ ▶︎ | 1, 減額の時期 

1, 減額の時期

賃料は、一部滅失等が生じた時点から減額されます。そのため、賃借人が賃借物の一部が使用収益できない状態になってからしばらく経って貸主に通知した場合、一部滅失等が生じた時点がいつか特定できず、実際に使用収益できなくなったのはいつなのか分からないという点でトラブルになり得ます。

そこで、オーナーとしては、まず賃貸借契約書において、借主に対して貸主への通知義務を明示的に課すとともに、減額割合の算定方法についても契約書の中であらかじめ定めておくことが有効といえるでしょう。

もっとも、通知義務を明確に定めることによって、むしろ借主からの請求を招いてしまうおそれがあることに注意が必要です。

また、借主からの通知があった際は、使用収益できない部分については、部品の調達や業者の手配等にある程度の時間を要することがあるので、無用な紛争を避けるために、修繕の完了に向けたスケジュールや状況等について、借主に対して具体的に説明を行っておくことが重要です。

2, 減額の割合

上述の契約書の通り、一部滅失の程度や減額割合については明確な基準がありませんので、貸主と借主で、減額の割合や期間を協議することとなります。

協議において減額割合や減額期間を検討するにあたり、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が、『貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン』を作成し、ホームページにて公開しています。

こちらのガイドラインには、電気やガス等住宅設備が使えない場合の具体的な賃料減額割合や免責日数(物理的に代替物の準備や業務の準備にかかる時間を一般的に算出し、賃料減額の計算日数に含まない日数)などを用いて、減額する額を計算する方法が掲載されています。

なお、上記ガイドラインは、あくまでも目安を示しているものであって、必ずしも裁判上全てが認められるというわけではありませんが、借主との協議の際、客観的な基準として参考になるものと思われます。

賃料減額の規定については改正されたばかりで、具体的な事例の蓄積が待たれるのが現在の状況です。通知義務も含めた賃貸借契約書の作成や借主との協議の方法について、ご不明な点がございましたら、弁護士にご相談ください。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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